部下に指導しながらチームで業務を行なう管理職や、事業全体を率いる経営者にとって、マネジメントはまさに必要不可欠な手法。だからこそ、この記事に興味を持ってくださった方は、個人で悩まされているだけでなく、自社全体の課題であると感じていらっしゃるのかもしれません。
そうした悩みや課題は、マネジメントを行なう人材の育成を改善することで、解決できる可能性があります。当記事では、まずはマネジメント能力の定義や、多くの企業に共通している現状からご紹介。それらを踏まえ、「マネジメント能力には具体的にどんなスキルが求められるか」を細分化した上で、育成に役立つヒントまでお伝えしていきます。
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マネジメント能力とは?
マネジメント能力とは、「何かしらの事柄を管理・運営する能力」のことを指します。ビジネスにおいて多くの場合、人材や資金などが管理・運営の対象になります。そのため、チームや部署をまとめる管理職や、事業全体に責任を持つ経営者などにとっては、必須と言っても過言ではないスキルです。
リーダーシップとの違いは「対象」と「視点」
マネジメントと似たような意味で使われる言葉として、「リーダーシップ」を思い浮かべる方は多いかもしれません。しかし、実は両者にははっきりとした違いがあります。マネジメントもリーダーシップも、「チームを率いて目標達成へと導くための能力」である点は共通しています。ただ、リーダーシップは主に人に対してのみ発揮される統率力であるのに対し、マネジメントは「人に限らず、物資や資金なども含めた経営資源が対象となる」ことが特徴。したがって、それぞれに必要とされるスキルも変わってきます。
リーダーシップでは、チームにおける長期的な目標やビジョン、方向性を定め、新たな挑戦や変化・創造も視野に入れてチームを率いる能力が求められます。一方、マネジメントにおいては、長期的な目標だけでなく、
- 目標達成に活用できる経営資源の把握
- 経営資源を考慮した短期的な目標設定
- 目標を前提とした具体的な計画立て・手段の模索
などを行なうスキルも重要視される傾向にあります。ここで、両者の役割を、複数人で行く長期間の旅に例えて考えてみましょう。この場合、「最終的な目的地はどこなのか」「何のためにその目的地へ行くのか」「その目的地に行くためにどんなルートを通るのか」などを示し、自ら先導していくのがリーダーシップ。
他方で、「いつ頃にどの目標地点に到着するのか」「次の目標地点までの移動手段はどうするのか」「次の目標地点に向かうためにどんな行動や資源が必要か」などを考え、最終目的地までの道中を管理していくのがマネジメントです。こうして比較してみると、役割の違いがイメージしやすいのではないでしょうか。
マネジメント能力に関する現状と課題
近年、日本においても、マネジメント能力が重視されるようになってきました。その理由に、日本の多くの企業の現状と課題が関係していることはご存じでしょうか?
多くの企業がマネジメント能力を重視している
日本能率協会が2003年度より毎年行なっている、様々な業界の企業に経営上の課題について聞く「経営課題調査」という調査があります。注目すべきは、同調査の「組織・人事領域で重視する課題」の項目。2003年度の調査では、「賃金・評価制度などの見直し」が1位となっているどころか、そもそも「マネジメント能力」というワード自体が登場していません。
しかし、10年後の2013年には、「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」が同項目の1位になりました。
2013年以降も、「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」は「組織・人事領域で重視する課題」の上位になり続けており、2021年度の調査においても、1位を記録しています。
こうした調査データから、2010年代以降、多くの企業がマネジメントの重要性、特に管理職層のマネジメント能力に関心を寄せるようになったことが伺えます。
参考:日本能率協会「経営課題調査」
多くの企業にとっての課題は「管理職層への大き過ぎる負担」
現在、多くの企業が管理職層のマネジメント能力向上を重視している一方で、人を率いる立場にある人に対し、マネジメント能力の育成が追いついていない企業も多いという現状があります。原因としては、「管理職自身もプレイヤーとして業務に追われる場合が多いこと」「グローバル化や雇用の多様化に伴い、マネジメントにおいても一人ひとりに合わせて対応する必要性がより高まっていること」などが挙げられます。こうした理由から、マネジメントの基礎を学んだり、スキルを磨いたりする機会が少ないまま、現場で部下の対応をせざるを得ない状況になってしまっている管理職が多くいるのです。
マネジメント能力を構成する4つの要素
では、企業全体のマネジメント能力向上を実現させるためには、どうすれば良いのでしょうか?対策を立てる前に、まずは、マネジメント能力を細分化して把握することが重要になってきます。ここからは、マネジメント能力について、細かな4つのスキルに分解して解説していきます。
1.目標を設定して共有する力
マネジメントを確実に進め、成果を出していくためには、チーム共通の目標と、チームメンバー一人ひとりが目指すべき目標の両立が欠かせません。いずれの場合も、重要となるポイントは主に2点。
- 組織の理念や課題を前提に考えること
- 期間を定め、その期間内で実現可能な形で設定すること
まずは、自社の理念や事業全体の目標、さらにはそれらを踏まえて「自分の率いるチームに何が求められているのか」をしっかり理解した上で、目標を設定していくところから始めましょう。といっても、実現が難しい目標をただ闇雲に立てているだけでは、現場のモチベーションや、部下からの信頼の低下に繋がってしまいます。
現時点での状況、一人ひとりの能力・適性などを知り、理想と現状のバランスを見極めながら、目標を定めていく必要があるのです。また、せっかく設定した目標も、部下に正確に伝えることができなければ達成は難しくなってしまいます。正しく伝えるためにはコミュニケーションスキルが必須なのですが、これはマネジメントの他の要素においても、非常に重要です。
2.計画や進捗を管理する力
目標とそれに基づいた計画を定められたら、達成できるように進捗を把握・管理していくことも、マネジメントに求められるスキルです。計画を滞りなく進めるために効果的なのは、優先順位をつけること。「今はどんなことを優先して行なうべきか」「どうすれば最も効率的か」を考え、部下に指示を出していきましょう。
3.現状を適切に聞き出して把握・対処する力
目標と計画を立て、管理を行なっていても、状況は日々変化していくもの。不測の事態が起こる可能性も十分に考えられます。そういった場合でも、その時の状況を適切に把握できれば、臨機応変に対応しやすくなるはず。現状を正しく把握するためには、「日頃から部下に正直に話してもらうこと」がポイントになってきます。チーム内で連絡を取りやすい環境を整えることはもちろん、マネジメントをする側から一人ひとりに関心を持ち、成果を正当に評価したり、「何か困っていることはないか」などを尋ねたりする工夫も行なっていきましょう。
4.チームメンバーの能力や状況に合わせたフィードバックをする力
チームメンバーの現状や能力を把握して終わりでは、マネジメントは務まりません。その上で適切なフィードバックを行なえるかどうかがカギとなります。適切なフィードバックを行なうポイントの1つとして、「正直に報告した部下に対して、マネジメントを行なう側も正直に伝えること」が挙げられます。
ただし、正直に伝えるからこそ、評価の仕方や伝え方にも気を配る必要があることには注意しましょう。必要以上に失敗を責めて部下のモチベーションを低下させたり、逆に成果や能力を甘く評価し過ぎるあまり、計画を滞らせてしまったりしては、元も子もありません。
マネジメント能力を高める6つの方法
4つの構成要素に分解した上で、改めてマネジメント能力について考えてみると、「自社が、特にマネジメント能力のどこに課題を感じている傾向にあるのか」が見えてくるのではないでしょうか。ここからは、マネジメント能力を高めるための方法を6つ紹介していきます。
1.理由や根拠をしっかり説明する
誰かに伝えることがある時には、伝える内容そのものだけでなく、理由や根拠を分かりやすく説明できるようにしておくべきです。たとえば、部下の一人に何かを提案する際にも、「なぜその人にその提案をするのか」「自分が何を考えてその提案をすることにしたのか」を明確に説明できれば、部下からの信頼度が高まるだけでなく、その人も「何をすべきか」が分かりやすくなり、業務の効率アップにも繋がります。このことは、部下からの報告を受ける場合にも同様です。状況の報告を受けた後に、「そのことについて相手はどう考えているのか」などの意見も積極的に聞くように心掛けましょう。
2.チームメンバーとの信頼関係を築く
チームを率いて目標を達成するにあたって、部下との信頼関係はなくてはならないもの。しかし、信頼を育むには、どうしても時間の積み重ねが必要になってきます。計画実行や目標達成はもちろん優先すべき事項ですが、部下との信頼関係の構築は長いスパンで考えていくべきでしょう。たとえば、ここまでご紹介してきた「現状を正確に聞いて適切なフィードバックをする」「理由や根拠をしっかり説明する」といったことを意識するだけでも、信頼関係を築きやすくなるはずです。
3.一人ひとりのスケジュールを把握する
チームで計画を進め、達成していくために把握しておいた方が良いのは、一人ひとりの能力や適性だけではありません。勤怠をはじめとしたスケジュールを把握しておくことも大切です。個々のスケジュールを把握した上で、全体のスケジュールを俯瞰できれば、優先事項を決めやすくなったり、タスクの多重化や予定のダブルブッキングなどのトラブルを防いだりできます。もし、「スケジュールを把握しておくべき部下の人数が多い」「複数のプロジェクトが同時進行しているため把握が難しい」などの理由で管理が難しい状況であれば、スケジュール管理用のシステム導入なども検討してみると良いでしょう。
4.コミュニケーションのテクニックを取り入れる
コミュニケーションは、互いに関心を持ちながら意思疎通を図ることが大前提。その上で、ちょっとしたテクニックを取り入れることで、コミュニケーションをより円滑に進められるようになります。気軽に取り入れられるテクニックとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- 傾聴
相手の話を心で聞くことに集中し、話している内容をありのままに受け止める
- ペーシング
相手の話すスピードや声量、動作などのペースに合わせることで一体感を感じさせる
- ポジション・チェンジ
物事を自分の視点、相手の視点、自分・相手の視点の両方を見る第三者視点の3つから考える
自分で実行すると同時に、部下にもこうしたテクニックを指導することで、チーム全体のコミュニケーションスキルも向上していくでしょう。
5.他者からのフィードバックを受ける
自分のマネジメントに関して他者からフィードバックを受けることで、自分のマネジメントを客観視することができ、強みや弱みを明らかにすることもできます。たとえば、マネジメント経験が豊富な上司や先輩にメンターになってもらうこともひとつのやり方でしょう。部下とのミーティングにメンターに同席してもらい、アドバイスなどをもらうことでマネジメント能力の向上を期待できます。
6.外部の研修を受講する
費用がかかってしまいますが、外部の研修を受講する方法もあります。外部研修を受講するメリットは、その分野に精通したプロや専門家に直接学べること。最新のマネジメント手法や他社の成功事例などを学べることもあります。また、研修の参加者同士が交流する場を設けてくれる研修もあり、そのような場合は新しいネットワークを築くことができ、情報共有や情報交換なども行なえるでしょう。
マネジメント能力を養うことは組織力向上につながる
人材育成に力を入れるほど、部下をまとめるためのマネジメント能力を高める教育は、避けては通れないものになります。しかしながら、
- あるチームのマネジメントを任せたい場合、任せたい人が、そのチームの担当する業務に精通していることが前提となる
- その時の目標や計画、部下に合わせた柔軟な対応が求められることが多い
といった事情により、マネジメント能力の育成には時間がかかる傾向があることも事実です。長期的な見通しを立てる必要があることを念頭に置きながら、まずは自社の現状を今一度確認し、具体的な目標と、優先順位を定めた計画を考えるところから始めてみませんか?
まとめ
状況に応じて、臨機応変な対応を求められるマネジメント。関連する能力は、実務を通じてスキルアップしていく側面もあることは確かでしょう。とはいえ、業界や自社の社風などによって、「こういったケースにおいて、こうした形でマネジメント能力を求められることが多い」といった傾向は少なからずあるはず。それらをノウハウとして共有して育成の仕組みや機会を整えると共に、管理職層への業務負担を軽減する取り組みを行なっていくことで、会社全体として、より円滑なマネジメントが可能になるのではないでしょうか。
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