各分野の専門家が集結し作るのは、人の心を温かくするテクノロジー
フェアリーデバイセズという可愛らしい社名とロゴの横に描かれた妖精のシルエット。同社は、開発理念には「使う人の心を暖かくする一助となる技術開発」という言葉を、会社を表現するには「ココロ温まる技術で、ヒトと機械をつなぐ会社」という言葉を掲げる。
藤野氏は東京大学在学中、創薬ベンチャーで遺伝子創薬の研究開発に携わっていた。プライベートでのある出来事をきっかけに大学卒業後は大学院医学系研究科へ進学した。病院での実習で一人の少女との出会いが人生の大きな転機となる。
その少女の手術に立ち会った際の出来事。手術室には人工心肺等の人を生かすために作られた機械の中に、一つだけその少女がいつも大事にしていたクマのぬいぐるみが置いてあった。
その時、「ぬいぐるみは命を救えないけども、救われた命を豊かにしてくれる」その事に衝撃を受けた。そんな「必須ではない」が心を豊かにし、温かくすることにテクノロジーを役立てたいと思い、その後、フェアリーデバイセズを創業することになった。
機械の中に妖精がいるかのような心温まる技術と滑らかで自然な使い心地を目指し、この社名をつけた。最初のプロダクトはプラネタリウムソフト。これも、きっかけは小児病棟での出来事だ。入院中、病室から夜空を見上げる事ができない少女に星空を届けるために作った。そのようにしていくつかの技術開発、プロダクトを経て、機械の聴覚というテーマにたどり着き、mimi®やTHINKLET®が生まれたのだ。
音声認識を手がける会社は多く、傍から見れば一見「競合」に見える会社もあるだろう。だが、藤野氏の関心はそこにはない。「この分野の最先端の研究は大学にあります。その技術を、事業会社が自前のデータやリソースを使って実装する。最新のアルゴリズムや方式はアカデミア、応用はインダストリーという構造のなかで、競合の技術を気にするのはナンセンス。世界中で常に新しい技術が生まれており、特定の技術が競争力を持つという時代ではありません。最新の状況にキャッチアップし続けて、常に最新の研究成果を取り込み続ける継続力と人材とチーム。それこそが競争力だと思っています」。そう断言する。
その言葉通り、フェアリーデバイセズでは、この3点を意識した体制を構築してきた。今のメンバーは医学を専門とした藤野の他に、情報科学や人工知能分野の専門家、音声の専門家、心理学の専門家等、幅広い研究者が在籍。その中には、赤ちゃんが言葉を覚えるプロセスを研究する言語発達の専門家も。「コンピューターは自分で言葉を覚え得るのか」という壮大なテーマへの布石でもある。