地域での暮らしを支える―誰も取り残さない、精神科医療のあたらしいかたち
かつて精神科病院は、患者さんを社会から隔てる場と見なされていました。けれども今、医療のあり方は大きく変わりつつあります。私たち山容病院は、専門性を大切にしながらも、特定の分野に偏らない、幅広く柔軟な精神科医療を心がけています。病気や障害の種類にかかわらず、患者さんが地域の中で安心して暮らし続けられるよう、生活の実情に即した支援を行っています。平成23年から長期入院患者さんの退院支援に取り組み、平成27年には病床数を313床から220床へと再編して新病院へ移転しました。病棟をコンパクトにすることで、より密なケアと落ち着いた療養環境を実現しています。当院では、うつ病や統合失調症はもちろん認知症やアルコール依存症など、さまざまな精神疾患に対応しています。認知症医療においては、精神科急性期・認知症専門・身体合併症対応の三機能を備えた病棟を組み合わせ、庄内地域全域から入院治療のご依頼をいただいています。また、平成22年に導入したクリニカル・パスに基づいて、アルコール依存症治療のプログラムを改善し続けてきました。現在ではギャンブル、ゲーム、薬物など、アディクション(嗜癖)全般に対応しています。私たちは「のむ治療から、学ぶ治療へ」を理念に掲げ、ひとり一人の歩みに寄り添う支援を大切にしています。さらに、思春期外来を立ち上げ、行政や学校などの教育機関と積極的に連携しながら、子どもたちとその家族に対する早期支援にも力を入れています。「本人のために」という視点を見失うと、医療はその本来の力を発揮できません。精神疾患があっても、患者さんに責任と役割を託し、その結果をともに受け止めていく― そのような姿勢が、院内だけでなく、地域の中にも着実に根づいていくことを、私たちは信じています。 医療法人山容会 理事長 小林和人