建築が真に完成した姿を、写真として定着することそれを、私たちは「絶対的瞬間=absolutte moment」と考えます。
1962年、故川澄明男先生が建築写真家として志を持ち、事務所を設立してから60年になります。高度経済成長と共に様々なプロジェクト、大規模建築の竣工写真を撮り続けてこられました。1982年、日本大学芸術学部を卒業したばかりの私は、建築写真家に未来を抱き、先生の事務所の門を叩きました。以来40年間、今も先生の開拓された道を地道に歩み続けています。
ここに川澄先生が撮影された1枚の写真があります。戦後、焼け野原から立ち上がった日本で初の超高層ビル「霞が関ビル」の竣工写真です。川澄先生は「撮影者の感性と建築家の感性とが互いに共振し合い現実の建物とはまた別の物が生まれてこればと思っています。」と述べています。後進の私どもは、これからの日本社会のために、先人の教えや歴史を、未来の人達に伝え残していかなければならない役目を担っているのではないかと今強く感じております。
私自身は、建築家、また建築職人を始めとする様々な人達が与えてくれる建造物の空間に身を置くと、あたかも自分自身とその空間とが一体となるような不思議な感覚を味わう瞬間があります。その感動は作為的意識の高揚の中に得られるものではなく、しかし、かと言って求めずして得られるものでもありません。ごく稀な偶然にも近い時間なのです。そんな神秘的時間、空間の交錯の中でカメラのファインダーを通し、二次面の写真の世界に建築を表出させ得ることが、私のライフワークです。
現代の建築は、高度な現代文明の象徴と言われますが、私自身は、建築はその社会における文化の集大成であると思っています。建築主、設計者のビジョン、施工者の技術、そしてそこを行き交う人々、それぞれの思いの集大成であると思います。建築物にはそうした内在したスピリットがあると思うのです。
建築写真とは、建築主が最初に頭の中に描いたビジョンや、設計者のイメージ、施工者が丹精込めて作り上げたマテリアル、そしてそこを行き交う生き生きとした人々の姿、そうしたそれぞれの思いを感受し、建築が真に完成、到達した姿を、写真として定着することそれを、私たちは「絶対的瞬間=absolutte moment」と考えます。
研ぎ澄まされた建築をモチーフとした写真を撮ることによって、
今後とも社会に貢献できるよう我々スタッフ一同邁進する所存です。