近年導入する企業が増えている「サクセッションプラン」。サクセッションプランとは、後継者育成計画を指します。社長にあたるCEOや、経営幹部などの後継者を育成する計画のことで、日本を代表する大手企業を中心に導入の動きが活発になっています。
企業が長期的に経営を続けていくために、後継者の存在は無視することはできません。しかし、一般社員ではなく後継者の育成となると、どうすればよいのか分からないケースも多いのではないでしょうか。そういった人事担当者や経営者のために、この記事ではサクセッションプランを詳しく解説しています。大手企業の事例などもありますので、参考にできることがあればぜひ活用してください。
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- サクセッションプランとは?
- サクセッションプランが注目される背景
- サクセッションプラン導入によるメリット
- サクセッションプランのデメリット
- サクセッションプランの導入手順
- サクセッションプランの事例
- サクセッションプランで長期的な企業存続を
- まとめ
サクセッションプランとは?
まず、サクセッションプランの意味ですが、日本語に訳すとサクセッション(succession)は継承・相続のことで、後継者育成計画を意味します。この後継者というのは、将来的に組織をリードしていく重要ポストの候補者です。たとえば、社長などのCEO、経営に関わる幹部、など企業を引っ張っていくために必要な上層部ポジションが対象とされています。
サクセッションプランの目的
サクセッションプランの導入による目的は、長い時間をかけて計画的に後継者を育成し、長期的に成長できる強い組織・企業をつくることです。サクセッションプランは短期間で終わる育成計画ではないため、実行に移すまでには入念な準備と覚悟などが必要です。しかし、事業を受け継いでいくために経営陣が必ず向き合わなければいけない戦略であるといえます。息の長い企業になるためにも重要な事案なので、近年は大手企業を中心に導入している組織が増えています。
人材育成との違い
次に、サクセッションプランと人材育成の違いについて説明します。人材育成は、社員一人ひとりの能力を伸ばしていくことで企業の業績につなげていく方法です。重要ポストの後継者候補を育成するためのサクセッションプランでは、経営者としての観点を養うことが求められます。たとえば、経営戦略やリーダーシップなど、経営に必要なスキル・知識を身につけなければならないため、一般的な人材育成ではあまり深堀しない内容を習得する必要があります。
後任登用との違い
また、後任登用との違いについてですが、後任登用は上司直属の部下など近しい人材の中から後任候補者を選ぶことがほとんどです。しかし、サクセッションプランでは幅広い人材の中から候補者が選ばれます。さらに後任登用は、候補者決定後の引き継ぎ期間が短めですが、サクセッションプランの場合は経営者としての目線を養うことが必要なので、長い期間を要します。
サクセッションプランが注目される背景
サクセッションプランが注目されている大きな理由のひとつとして、後継者の不在率の高さが挙げられます。実際に、帝国データバンクによる“2020年後継者不在率動向調査”によると、全国全業種の約26万6000社中、全体の約65.1%にあたる約17万社が後継者不在であるという結果になりました。この数字は2011年以降最低を更新しており、3年連続で低下しています。後継者がいないという理由で廃業という道を選ぶ企業が増えているのが現実です。そのため、後継者を育成しなければならないと考える経営者が多くおり、サクセッションプランに注目が集まっていると考えられます。
参考:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」
サクセッションプラン導入によるメリット
では、ここからはサクセッションプランを導入することで得られるメリットを項目ごとに説明していきます。
重要ポスト不在の防止
最高経営責任者であるCEOなど、組織のトップやその後継者などが不在となると、社員が混乱し経営状況が悪化してしまう恐れがあります。そのため、重要ポストの候補者は常にストックしておかなければなりません。サクセッションプランを導入し後継者を育成しておけば、もしものときに大きな混乱が起きることはなく、会社経営を安定的に続けることができるのです。
優秀人材の定着
企業が必要とする優秀な人材は、自分の能力をもっと発揮できる環境を求めて、転職したり起業したりする可能性があります。そういう人材を定着させるためにも、サクセッションプランの導入は有効な手段です。「自分も将来、経営に関われるかもしれない」と仕事へのやる気がアップするので、外部へ人材が流出してしまう足止めとなることが予想されます。
採用にかかるコスト削減
一般的なサクセッションプランは、自社社員の中から候補者を選出することです。そのため、優秀な人材を引き抜くためのヘッドハンティングや求人の募集をかける必要もなくなり、採用にかかるコスト削減につながるのです。
登用基準と育成の可視化による信頼性アップ
サクセッションプランを導入するためには、対象ポストの登用基準や育成過程をまとめ上げ、公開する必要があります。これまで不透明さ感じていた、人材登用の基準や育成方法が明確になることで、信ぴょう性が高まり社員の信頼度も上昇するのです。「後継者に求める人物像」がクリアになれば社員の意欲が刺激され、さらに候補者に選出されたなら、自信がつくはず。自分のスキルや経験を前向きに捉えられるようになるでしょう。
活躍人材の把握と確保
サクセッションプランを導入し候補者を選定することで、自社に在籍している優秀な人材を把握することができるようになります。たとえば、事業拡大をしたいが、人材がいないため断念しなければならない…という状況を、防ぐことにつながるのです。優秀な人材を把握し、一人でも多くストックして活躍の機会を与える。企業と社員の双方が利益を享受できるといえるでしょう。
サクセッションプランのデメリット
サクセッションプランには多くのメリットがありますが、デメリットも考慮しなければなりません。デメリットを知ることで、導入後の想定外を防ぐこともできますので、しっかり理解しておきましょう。
育成に時間がかかる
サクセッションプランによる後継者の育成は、基本的に長い時間がかかります。企業の経営に関わる候補者の育成であるため、企業理念やビジョンなどをしっかりと理解しなければならないからです。また、育成プランの準備や資金の調達も必要になってきます。しかし、時間をかけて丁寧に育成した分、求めている通りの最適な後継者へと成長する可能性が高くなります。そのため、時間の長さに囚われることなく、前向きに根気強く取り組むことが大切になってきます。
候補外社員のモチベーションダウン
後継者候補の選定が終了すると、選ばれなかった社員たちは、ガッカリすることでしょう。そのため、モチベーションダウンが予想されます。最悪の場合、仕事にやりがいを見出せなくなり退職してしまう可能性も十分に考えられます。そのため、サクセッションプランの導入と同時に、モチベーションをキープできる施策を考えておくことなど、対策が必要でしょう。
サクセッションプランの導入手順
それでは、実際にサクセッションプランを導入するには、どのような手順を踏んでいかなければならないのでしょうか。項目を立てて説明していきます。
STEP1.経営戦略やビジョンの明確化
まずは、後継者に受け継がせたい自社の文化や慣習などを明確にすることから始めます。たとえば、企業理念、ミッション、ビジョン、など今後の方向性・経営戦略に関わる内容を浸透させるための準備第一ステップです。日頃から理念、ミッション、ビジョン、バリューが明確になっていれば、後継者も方向性を理解しやすいため、企業理念が重要になってきます。この基本が理解できていないと、後継者に引き継ぐこと自体が難しくなってしまうため、最初の段階からしっかり固めておきましょう。
STEP2.対象となるポストの特定
次に、後継者の教育を行なうポストを特定します。CEOなのか執行役員なのかなど、ポストによって後に決定する人材の要件設定や育成プログラムなどが変わってくるため、慎重に特定しなければなりません。必要があれば役職の追加や再編成なども行ない、できる限り形を整えておきましょう。
STEP3.人材の要件設定・選出
対象となるポストの特定が完了すれば、その役職にふさわしい人材の要件を設定し、最適な人材の選出に入ります。設定要件と例えとしては、必要なスキル、知識、経験、行動特性などの仕事に関わる内容はもちろん、リーダーシップやコミュニケーション能力、人間力、周囲からの評価なども加えましょう。人材を選出する際の指針となるため、この部分に矛盾や偏りが出てしまうと育成計画自体が不明瞭な内容になってしまうかもしれません。そうならないように具体的に洗い出すことが大切です。
STEP4.選出した人材の育成開始
ここまでの準備が終われば、いよいよ後継者の育成がスタートします。選出された候補者に応じた個別の育成計画を立て、実施していきましょう。育成プランの具体例としては、以下のものが考えられます。
- 問題解決能力やリーダーシップ能力を高めるアクションラーニングの受講
- 他部署での管理職経験を積み、意思決定能力を高めるジョブローテーション
- 自社の戦略や経営に対する理解を基礎学習
- 海外派遣などを通したグローバルリーダー育成プログラム など
また、定期的に社長や役員と面談を行なうことも重要。「これから自分が会社をけん引していくのだ」という意識やモチベーションを向上させるためにも効果的です。
サクセッションプランの事例
冒頭でも説明したように、日本を代表する大手有名企業も、サクセッションプランを導入し、後継者の育成に取り組んでいます。参考として、企業事例を3社紹介します。
日産自動車
自動車業界をけん引する『日産自動車』では、サクセッションプランを導入しています。
- 目的:
グローバル規模の次世代リーダーの育成 - 概要:
“会社と社員が共に成長していく”というコンセプトで、グローバルに活躍・貢献し続ける人財の長期的・計画的な育成を2000年にスタートしました。CEOをはじめとする役員で構成された人事委員会を立ち上げ、すべての会議に自由参加できるキャリアコーチという特別役職を選出。任命されたキャリアコーチは、世界各地や各部門からリーダー候補者を発掘し、育成プランを提案する役目を担っています。
参考:厚生労働省「キャリア支援企業表彰2012好事例集 日産自動車株式会社」
花王
洗剤や化粧品などで知られる『花王』でも、基幹人財の育成を目的にサクセッションプランを導入しています。
- 目的:
基幹人財の育成(個別キャリア開発) - 概要:
すぐに後任になれる人財1名、1~3年で後任として育成する人財2名まで、3~5年で後任として育成する人財3名までと、人財の定義を三つの区分に分けてサクセッションプランを実施。360度多面評価やフィードバックなどを通して、自身の課題達成度や遂行度を気づかせるという育成プランを取っています。
参考:総務省「花王の人材開発について」
りそなホールディングス
幅広い金融サービスを提供する『りそなホールディングス』は、人材の要件を明確に定め、サクセッションプランを実施しています。
- 目的:
役員の選抜・育成 - 概要:
「役員に求められる人材像」として、7つのコンピテンシーを設定。次世代トップ候補者から新任役員候補者まで、必要ポストを分類し、階層に応じた育成プログラムを導入。指名委員会や役員が具体的に人材の要件を定め共有することで、評価・育成指標をクリアにし、中立的な育成・選抜を行なっています
参考:りそなホールディングス「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方」
サクセッションプランで長期的な企業存続を
ここまでサクセッションプランによるメリットやデメリット、導入手順、企業事例などを説明してきました。サクセッションプランは、将来にわたって健康的な経営を行なうために、効果的な方法であるということを理解いただけたでしょうか。
終身雇用が一般的でなくなりつつある近年は、長期的な計画を立てることが難しいという意見もあるかもしれません。ですが、未来につながる育成方針やビジョンを示すことで、社員が「組織から求められていることが何なのか」を把握することができ、帰属意識の向上が期待できます。そして、離職率の防止や後継者育成へとつながっていくのです。企業が長く存続していくために、サクセッションプランの導入という選択があるということを知っておいてほしいと思います。
まとめ
長く、安定した経営を行なっていくためにも、トップに立つ人間は非常に重要です。その姿を見て新しい活躍人材が育っていくことにもつながるので、後継者問題に不安を抱えているのなら、一度サクセッションプランの導入を検討してみてはいかがでしょうか。企業の存続に、本記事の内容が参考になれば幸いです。
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